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#リプされた数だけ創作キャラに纏わるSSを書く

ツイッターで少し前に回っていたタグでした。
お二方からリプを頂きましたのでこちらに載せて行きます。
ちょっと遅くなってしまいました、ごめんなさい。

では折りたたみの下に。
リクエスト下さったplokmさん、志津たん、ありがとうございました。
 

 

 


■秋の音色。

「笛の音……」
 静かな夜の空間に、澄んだ音が響いていた。
 隆信からの長い文に目を通していた浅葱はそこで顔を上げて御簾の方へと視線をやる。
 下ろされた御簾のむこう、屋敷内のどこかで誰かが横笛を奏でているらしい。
「琳の笛ですね」
「……そういえば、琳は笛が得意だものね」
 燈台の油を継ぎ足すために浅葱の傍から離れていた賽貴が、その油を片手に戻ってきた。
 そして同じように笛の音に耳を傾けつつ、慣れた手つきで油を注ぐ。
 浅葱はそんな賽貴の姿を見やったあと、再び外に視線を向けた。
 よくよく耳をすませば、秋を思わせる音が外の世界には広がっている。
 鈴のような虫の声、茅が風に揺れる音。そして、笛の音色。
「風情があっていいね」
「そうですね、浅葱さま」
 秋の夜は長い。
 浅葱も式神たちもそれぞれに、その夜長に思い思いの時間を過ごしていく。
 ジジ、と燈台の中の油の芯が燃え進む音がした。
 それが合図となったかのように、賽貴が膝を進めて浅葱の手を静かに取る。
 僅かに冷えた小さな手を握り込んで、彼は主の腕の中へと招きに入れた。
「賽貴……」
「冷えてまいりましたので」
 賽貴がそれらしい理由を述べるときは、大抵は口実だ。
 そう解ってはいても、近すぎる距離感に浅葱は頬を染める。いくら抵抗してもその腕からは逃れられないことも解りきっていたので、彼はそのまま体重を賽貴に全て預けて瞳を閉じる。
「今年の冬も、寒くなりそうだね」
「温石をたくさん用意しましょう」
 ゆっくりと言葉を告げると、賽貴が冗談交じりにそんなことを言った。
 浅葱はそれに小さく笑いながら「そうだね」と返して、また御簾のむこうに目をやった。
 まだ、笛の音は響いている。
 秋の色を醸し出す音。それに耳を傾けつつ浅葱は再び、ゆっくりと瞳を閉じた。



■白秋のぬくもり。

 琳は燭台を片手に屋敷の縁を一人で歩いていた。
 夜の帳が完全に落ち、何事もなく日を終えられるかどうかを己の目で確認して歩いているのだ。
 自分たちに与えられた部屋から、各人の室の様子。
 そして、浅葱の対屋。
「――まだ起きてるのか」
 浅葱の室から明かりが漏れ出ているのを確認して、彼はそんな独り言を漏らす。
 主に常に付き従っている賽貴は、今は夜の京の見回りに出ていてこの屋敷にはいない。
「浅葱どの、よろしいですか」
「…………」
 降ろされている御格子の傍に歩みを寄せ、膝を折ってから控えめに声をかける。
 室内からは返事は無かった。
 明かりを点けたまま居なくなることはないので、琳は眉根を寄せる。
「失礼します、浅葱どの」
 ゆっくりと妻戸を押し開けて、琳は浅葱の室内に足を踏み入れた。
 御簾を上げて、几帳の向こうにいるはずの浅葱を探す。
 すると主は、脇息にもたれかかって眠ってしまっていた。
 傍には文机があり、書きかけの文と筆が転がっている。ここ数日は連日の深夜の仕事が多かった。昨日も火急の依頼で夜遅くに出かけて行った。片付いたのが明け方であったので、睡魔に勝てなかったのだろう。
「浅葱どの、寝所に移動されたらどうですか」
「……う……ん……」
 少し離れたところに手にしていた燭台を置き、琳は浅葱へと歩み寄った。
 背に手を添えてそう声をかけると、主は眉根を寄せたままでゆるい言葉を返してくる。座ったままの姿勢で眠っているために居心地も良くないのだろう。このままでは伏せている頭の重みで腕も痺れてしまう。
「浅葱どの」
「…………」
 もう一度名前を呼んだ。
 浅葱からの返事はない。
 予めそれを予測できていた琳は、軽いため息のあと文机をおもむろに避けた。転がったままの筆も拾い上げて、文箱の中に仕舞い入れる。
 そして彼は黙したままで己の着ている水干の襟留めを解いて、中に着込んでいる着物を手早く脱いだ。
 次に未だに眠ったままの浅葱の体をゆっくりと移動させて、横たえさせる。簡易な形ではあるが脇息にもたれたままで居るよりかはその場に寝かせたほうが良いと判断したのだ。その体に、自分の脱いだ先ほどの着物をふわりと掛けてやる。
 身体を冷やさないためにと、少しばかりの賽貴への対抗心からくる行動だった。
「無防備ですね、本当に」
 そんな独り言を漏らしつつ、琳は浅葱の頬へと手を伸ばした。一筋の髪が頬に掛かっているので、避けてやるためだ。
 艶のある綺麗な黒髪だった。
 浅葱の好む梅花香が鼻を擽り、理性を崩しにかかってくる。
 琳はそれに一瞬だけ負けそうになり、ゆるく首を振った。
「……お休みなさい、浅葱どの」
 眠り続ける浅葱の耳元へ、そんな言葉を届ける。
 そして琳はゆっくりと立ち上がり、置いたままである燭台へと歩みを寄せてそれを手に取り、浅葱の室を後にした。
 ゆるゆると流れていく秋の夜長。
 鈴のように庭で鳴く虫の声を耳にしながら、彼は屋敷内の見回りへと戻るのであった。
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